小説『一領の着物』あとがき
明晰夢を原案とするプロットから小説を生成AIと共に仕立てた話
小説『一領の着物』本編は北村由衣個人サイト上で公開しています。
明晰夢から小説へ
この小説は、筆者(北村由衣)の見た明晰夢を書き起こし、多少なり文学として読めるものに仕立てたものである。整った文章作成は生成AI(ChatGPT)に大部分を委ねた。私がそのまま書き始めると技術文書になってしまうので。
夢での上映
の昼下がり、私は眠っていた。いつもの午睡である。 夢を見た。
蕎麦屋に入る。店員の男衆にGTA5の警備員の空気を感じる。すべてが行き届いていて、そして厳つい。店の奥にVRゴーグルを被った小さな娘がいる。ゴーグルを外したとき、世界の奥行きと広さを「実感」する。娘は自身の生い立ちを爆速タイピングで書籍化する。
1時間ほどのREM睡眠だったようだが、あらゆる細部を省略するとそんな夢だった。
夢の記録
目が覚めて、とりあえずいつも通り時間確認を兼ねて私はスマホに触れる。そして、Plusプランに課金したChatGPTに夢ログを書き込んだ。以下はその抜粋である。
着物を大切に思うばかりに着る人を自営の蕎麦屋から娘を外に出さない箱入りにしてしまう夢物語
「市に売りに出そうとしているところを掻っ攫ってうちの娘に仕立て」「家族には内々に金員を給付し」「立派に振る舞えるようになったときにすべて還元する」「舞の躾つき」
「入店すれば警備と給仕作法ガンギマリの男店員が使役されてて娘はひたすら読み書き、客の無礼は許さない」GTA世界観
小学生の頃の現代の居住地から「遅刻遅刻ー!」「いつもは通らない道」「蕎麦屋がある、覗いちゃう」「無礼者で引っ捕らえられる(追い出される)」があった
原典夢と小説の分離
古典文学としてありそうな「『着物は着てこそ』という素朴な寓話から、身請け・養女・秘密信託・花嫁修業を全部混ぜた時代劇」の成分と、VRやGTAといったテクノロジーがあまりにも夢でごちゃまぜにされて押し込まれていた。原典夢では前振りとして更に学生時代の友人らも店の客として登場していた気がするが、それらも除けていく。
ChatGPTで、書き込んだ夢ログをもとに、文学として要らない要素を除外して、足りない説明や所以を盛って、プロットに整理した。
原典が夢がゆえ、再参照が不可能であることが、盛り削りの自由度を引き上げたように思える。夢そのものと、編集上の追加要素。これらはある程度分離して扱った。しかし、夢の記憶は薄れ、記録のみが残り、小説という作品だけがまた残っている。
仕立て
プロットは3回リライトした。再参照不能な原典を、読み物として成立するように編纂する二次創作のようであった。
原典夢から維持した要素は「娘と一領の着物が一緒に売られている」「女が引き取る」「守りすぎて箱入りにする」「舞で着物を着る」辺り。これらを軸に再編纂したようなものである。
特に原典夢以上に強化した要素が「箱入り」関連である。娘を守る、という目的とそれに対する行動自体の正しさと、それらが拘束へと変わる節目を見失う様子の描写をいくつも増やした。
校閲と編集
今回の制作は、著者たる北村由衣が主であるが、ChatGPTと著者の母が登場する。
生成AIと共に
ほぼすべての作業工程に生成AI(最近たまに「言語生成器」や「ガチャ」と呼んでいる)、ChatGPTを利用した。
私の発案を流し込み、整形させ、議論の相手になってもらった。
文案を作成してもらう時間よりも、背景設定の合理性などを議論する時間のほうが圧倒的に長かった。別案や、補いたい欠落の補充案を出し、選別し、局所的なパッチを当てていった。
四稿から五稿への変化は細部を直接私が編集した。
赤いチケット
校閲作業にあたっては原稿を紙に出力した。赤ペンを使ったアナログな方法だ。しかし、それをフィードバックして次の原稿生成に反映させるには再びデジタルなデータに戻す必要がある。ChatGPTのPlusプランではファイルの添付をしても特段リミットへの影響がない程度なので、スキャンした紙面データを読み込ませた。
ChatGPTが読み込んだ赤ペンを解釈して、一覧化し、チャットで私と議論を広げていった。赤ペンの解釈の過程で、縦書きへの赤入れの画像データ学習がまだまだなんだな、と感じた。別の行にマッチされたり、余白への横書きでの挿入指示が別の形に解釈されたり。手書きの私の文字の認識率が低かったのは単に字が下手なのかもしれない。
まるでプログラミングのコードレビューをしているようだった。原稿に赤入れをして、それを個々の論点を議じて次版の原稿に反映する。コード参照したissueを立てて議論してsubmitする。本質的な作業はコードレビューのようだった。
校了
原稿Markdownファイルは4回のリライトを経てv5まで育った。校正チケットは幾つを数えたかもはや数えきれない。しかし、金曜の午睡のメモ起こしの翌日には校了していた。バージョンの積み上げ速さの背景にChatGPTの存在があるのは疑う余地はない。しかし、「原典夢への参照」ではなく「小説としての成立」に寄せた成果なのであろう。
ChatGPTにより生成された本文を読み、赤入れをし、解釈や背景設定を議論した。文体や描写の仕方は私のポリシーを伝えた。本文七章の「娘の指先が袖に触れる。」や、八章の「娘が一歩、前へ出た。」は私が明示的に挿入した文の例だ。第一稿から校了原稿たる第五稿まで、文句を言わず、プロットの再構成や本文の再生成をしてくれたChatGPTなしには、本作は仕上がることはなかっただろう。
実物を見る
第一稿には人間の読者がいた。母だ。着付け教室を知人に開いたり、普段着感覚で着物を扱う人で、また、時代小説に分類される書籍の読書量も多い人である。
序・終の額装構造は第一稿では時代を跨ぎ物語世界へ誘導する少年の動きをしており、やや当惑させたものの、大事な指摘と知見共有があった。8歳の仕立てと成人女性の仕立ては異なる、という「一領の着物」に致命的不具合をもたらしうる指摘だった。そして、反物からの仕立てではない、と断りを入れつつ、棚の上から段ボールを一箱下ろしてきた。洋裁布を使ったものではあったが、三つ身と四つ身の仕立てられた実物を示してくれた。仕舞ってあった着物が、仕舞い大切に扱うことを題材にする小説の校閲資料として出てきたのである。
この指摘への対応は、三章に一単語補うかたちで取り込まれた。
ちなみに「なんで取っておいてあるんさ」への答えは「捨てられないじゃん」だった。
つれづれ
当ブログのお決まり、最後のsection「つれづれ」。
HTML縦書き組み
writing-mode: vertical-rl;の宣言ひとつではある。
しかし、見た目を整え、読めるように操作性を整えるとなると、CSSとJavaScriptが顔を出した。本文700行に対し、CSS140行、Script130行である。内訳の大半は@media
printと破綻したBlinkページカウントの補整である。
夢というストーリー生成器
正直疲れる。寝起き、REM睡眠による軽い筋肉硬直も日常だ。あと、「あ、今日のストーリーここまでッス」と脳がシグナルを送る(?)と目を覚ますことができるようになる。SOXAIリング曰く実時間で1時間くらいの夢見の上映時間と推定されることもある。
それと、どうやら、私の記憶領域には、「睡眠中のみ明瞭に参照可能になる保持領域」があるらしい。「あ、これ、前の続き」と夢の中で明確に認識するのだ。記録と記憶によると数か月かけてひとつのストーリーを完走したことがある。
今回のちょっと時代風味のかかったシナリオも実は明晰夢「時代物シリーズ」第二編だ。前回は、もうちょっと「古民家復元資料館」くらいだったけども、今回はしっかりそこが使われていた状態が再生された。
「夢を見た」という寝起きのぼんやりさを越えて、それを書き留められる記憶の残り方もあまり嬉しくないものだし、ストーリーの内容ももう少し「悪夢寄り」から離れてくれたらありがたいのだが…。
了
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