Fwd:心の握手
本稿は、記事「心の握手」を書くに至った背景と私の立場についての補遺となります。
記事で提示した定義や実践は、理論が先に立ったものではなく、 私自身が被ケア側とケア側を行き来する中で、蓄積された経験から立ち上がってきたものです。
本文記事との本稿の関連
本編である「心の握手」は、 メンタルのケア場面における双方の関わり方を定義し、具体的な実践と「やらない選択」を整理した記事です。
一方、本稿は技法そのものを説明することを目的としていません。 なぜその定義に至ったのか、どのような立場から書かれているのかという文脈を共有するための補足です。
被ケア側としての経験
私は長らく精神科に通院する、被ケア側としての経験を持っています。 性同一性障害、感情の波などがあり、通院が続いています。
そんな経験の中で、調子を崩しているとき、「どんな気持ちですか?」「次はどうしますか?」といった問いが、 善意であっても大きな負荷になることを何度も経験してきました。
これらの問いは、「開かれた質問」とラベル付けされ、回答者に自由を与えるものとして語られがちですが、 実際には「目の前の相手にどこまで話すか」「何を答えるのが適切か」を即座に設計する責任を被ケア側に委ねるものになります。
精神科の定期通院の一番最初、「前回からどうでしたか?」は最たるもので、 睡眠・精神の安定・環境の変化 といった語るべき要素が多く、また医師が鑑別したい要素と整合せず 問診の中で話題が流されてしまうこともよく経験するものです。
また、誰かに相談をしたときに「じゃあどうしたいと思ってるの?」という質問返しや、 踏ん切りをつけて報告をしたときに「どういう気持ち?」という全責務を返してくる応答は、 言語化できていれば苦労してないという苛立ちにも至ります。
ケアする側に立って
私自身が被ケア側として過ごしてきた時間の中で、されて楽だった接し方を、そのまま持ち込んでいたのだと思います。 あるいは、されて嫌だった接し方を、自らはしないようにしていた、と思います。
相手の話を引き出そうとしすぎないこと、沈黙や忌諱を許すこと、そして、言葉や問いを急いで差し出さないこと。 最近、身近な友人のメンタルをケアする側になり、自然に実践していました。
本文記事で述べたような、「沈黙が生じたときに、それを埋めようとしない」「感情をあえて掘り出さない」。 そうした振る舞いは、一般的な「傾聴」のイメージからすると、どこか消極的に見えるかもしれません。
しかし、この関わり方は相手に拒まれることはなく、「ありがと」「たすかる」といったテキストメッセージや、 別れ際で何度も振り返って手を振るような仕草で返ってきました。
また、明確な返事があるわけではなく、テキストメッセージへの「既読」や「👍」「👀」といったリアクションアイコンといった 薄い肯定的な反応で会話がいったん閉じられることが往々にしてありました。 時には相手側からまるっきり違う話題の近況ネタが始まるなどがありました。
応対した相手も落ち着き、振り返ってその経過を整理したとき、「開かれた質問」というキーワードがメンタルケアの文脈で登場しました。 開かれた質問の具体例と相反する私の実践を振り返り、 「なぜこれで成り立っているのか」 「なぜ相手は安心したように話しているのか」 その問いが、後から静かに立ち上がってきたのです。
「心の握手」という言葉について
既存の言葉である傾聴や共感、支援といった概念では、この実践を十分に説明できないと感じました。
必要だったのは、技法というよりも、関係性への姿勢を示す言葉でした。ふと湧いて落ち着いた言葉が「心の握手」です。
なお、「握手」は本来、対等な行為ですが、心の握手では相手に握り返すことを求めません。 ただ接触があるという事実に重きを置いています。
なぜ書いたのか
この文章および定義記事の本文は、特定の誰かを導くためのマニュアルではありません。
ケアの場面で「問いを控える」「沈黙を選ぶ」ことに迷いを感じた人(これは専門職に限らず、身近な家族や友人から相談をされた人も含みます)が、 その選択を肯定するための補助線として機能することを期待しています。
正解を提示するのではなく、私が今立ち止まって振り返るにあたって言葉を残すことが目的です。
ついては、本稿は記事「心の握手」で提示した概念の背景説明にあたります。
定義や具体的な実践については、記事を参照してください。
つれづれ
いつものブログのように、「つれづれ」の節で締めようかと。
ここに書き置く内容は、今の私が紡げる言葉の限界でもあります。
状況や関係性が変われば、この定義や表現も更新されるでしょう。その可能性を含めたまま、今はこの形で置いておきます。
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猫が綴る雑多なブログ